社内で「自社専用のAIアシスタントを作りたい」という相談は、ここ最近とても増えています。社内の問い合わせに答えてくれる、過去の資料を探せる、日報を要約してくれる。そんな姿を想像すると、導入したくなるのは自然なことです。
一方で、実際に作ってみたものの、誰も使わなくなった、思わぬ情報が外に出そうになった、といった話もよく耳にします。原因の多くは、技術の選定よりも前に「ルール」を決めていなかったことにあります。この記事では、社内向けAIアシスタントを作る前に決めておきたいことを、順番に整理します。
まず「何に使うか」を一つに絞る
AIアシスタントに期待される役割は、とても広く見えます。しかし、最初から「何でも答えられる社内AI」を目指すと、誰にとっても中途半端なものになりがちです。
おすすめは、利用場面を一つに絞ることです。たとえば次のような形があります。
- 総務への問い合わせ(経費精算、休暇申請、備品の場所など)に答える
- 過去の日報や作業記録から、類似の事例を探す
- 社内規程や取扱説明書の中から、該当箇所を探して示す
「誰が」「どの場面で」「何を知りたいときに」使うのかを言葉にできると、必要なデータも、作るべき機能も自然に見えてきます。逆に、この問いに答えられない段階では、まだ作り始めるのは早いと考えてよいでしょう。
扱ってよい情報と、扱ってはいけない情報を分ける
次に決めたいのが、AIに読ませてよい情報の範囲です。ここは経営者や情報システム担当者が中心になって決める必要があります。
整理の目安として、次のような区分けが考えられます。
- 公開してよい情報:会社案内、公開済みの製品情報、一般的な社内手続きのマニュアルなど
- 社内限定でよい情報:社内規程、業務マニュアル、過去の議事録の一部など
- 扱わない情報:顧客の個人情報、給与や評価に関わる情報、取引先との未公開の契約内容など
特に注意したいのは、AIに渡した情報が、どの範囲の社員まで見えてしまうかという点です。たとえば人事情報を一緒に読み込ませると、本来見られない人にまで回答として届いてしまうおそれがあります。「誰が何を質問したら、どの情報まで答えてよいか」を、権限の考え方として決めておくことが大切です。
生成AIのセキュリティについては、以前の記事「生成AIのセキュリティリスク、中小企業が最低限知っておくべきこと」でも触れたように、入力した情報の扱いを事前に確認しておくことが基本になります。
間違った回答が出たときの扱いを決める
AIは、もっともらしい文章で誤った答えを返すことがあります。これを完全になくすことは、現時点では難しいと考えておいた方がよいでしょう。
そのため、「間違うこともある」という前提で運用ルールを作ることが重要です。決めておきたいことは次のような点です。
- 回答の根拠(どの資料のどの部分か)を表示するかどうか
- 根拠が見つからない質問には、推測で答えず「わからない」と返すかどうか
- 重要な判断(金額、契約、人事など)には、必ず人が最終確認をするかどうか
- 誤回答に気づいたとき、誰に、どの方法で報告するか
とくに「根拠が見つからないときは答えない」という設計は、社内での信頼を保つうえで効果的です。見えない根拠で自信満々に答えるツールは、一度の誤りで使われなくなってしまいます。
業務ナレッジを検索するAIチャットの開発では、検索結果にない内容は推測で答えない設計を取り入れた事例があります。詳しくは業務ナレッジ検索AIチャット「AIナレッジチャット」の開発をご覧ください。
誰が管理し、誰が更新するのかを決める
社内AIは、作って終わりではありません。規程が変わる、製品が増える、担当者が替わる。情報が古くなれば、回答の質はすぐに落ちます。
そこで、次の役割を最初に決めておくと運用が続きやすくなります。
- データの持ち主:どの部署が、どの資料の正しさに責任を持つか
- 更新の担当者:資料を追加・差し替えする人は誰か、どの頻度で行うか
- 利用状況の確認者:どんな質問が多く、どこで答えられなかったのかを見る人は誰か
「情報システム部門がいないから難しい」という会社でも、総務や現場の責任者が一人決まっているだけで、運用はずいぶん安定します。
利用ルールを社員にわかる言葉で伝える
最後に、社員に向けたルールも必要です。難しい規約を作る必要はありませんが、次の点は短い言葉で伝えておくと安心です。
- 業務で使ってよい範囲と、入力してはいけない情報の例
- 回答は必ず確認してから使うこと
- 困ったときや誤りに気づいたときの連絡先
「何を入れてはいけないのか」が具体的にわかると、社員は安心して使えるようになります。ルールは厳しさより、わかりやすさを優先すると定着しやすいでしょう。
作る前に、まず小さく始める
ここまで挙げた項目は、どれも一度に完璧に決める必要はありません。むしろ、一部の部署や限られた資料だけで試し、使いながらルールを育てていく方が現実的です。
いきなり全社向けに大きく作るより、「総務の問い合わせだけ」「特定の製品マニュアルだけ」といった小さな範囲から始めると、失敗しても被害は小さく、学びは大きくなります。
迷ったときは相談から
社内向けAIアシスタントは、技術的な面だけでなく、業務の進め方や情報の扱い方とも深く関わります。どこから手をつければよいか分からない、ルールを決める段階から整理したい、という場合は、遠慮なくご相談ください。LINEでの相談も受け付けております。作るかどうかを含めて、一緒に考えることから始められます。


